「もし、あの時違う選択をしていたら…?」
そんな”もしも”の世界を表す言葉として、近年よく耳にするのが「世界線」です。
もともとは『相対性理論』に由来する物理学の用語ですが、アニメやゲームをきっかけにネットスラングとして広まり、若者言葉として日常会話にも登場するようになりました。
本記事では、「世界線」の意味を物理学・哲学とサブカルチャーの双方の視点から整理し、使い方や言い換え表現、語源、英語表現まで網羅的に解説します。
子どもにも伝わるよう優しく解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
世界線の意味
アニメやネットで耳にする「世界線」という言葉は、もともとは物理学で生まれた概念です。
この考え方を理解しておくと、SF作品の設定や「もし違う未来があったら」という発想がより分かりやすくなります。
ここでは、その基本的な意味をやさしく解説します。
物理学・哲学における「世界線」の意味
「世界線」とは、もともと物理学(相対性理論)の専門用語です。
ドイツ語 Weltlinie(世界線) の訳語で、四次元時空における物体の運動軌跡を指します。
簡単に言えば、「ある物体が、時間と空間の中でどのように移動したか」を線として表したものです。
つまり、
「その物体がいつ・どこにいたか」
を時系列でつないだ線が「世界線」です。
この概念はアインシュタインの相対性理論で登場し、ミンコフスキー空間(四次元時空)上で「世界点(各時刻・場所の出来事)」をつないだ線として定義されます。
▼例:人の1日の動きを世界線で表すと?
- 朝:家
- 昼:会社
- 夜:帰宅
この移動を「家 → 会社 → 家」と線でつないだものが、その人の世界線です。
時間と空間の両方で変化する『動きの軌跡』を指します。
また現代では、この世界線の概念が「多世界解釈」の議論とも結びついて語られることがあります。
量子力学の「多世界解釈」では、起こり得たすべての選択ごとに宇宙が分岐し、無数の並行世界が生まれると考えられています。
哲学やSF作品では、こうした分岐した別の可能性世界を「パラレルワールド」と呼ぶことが多いです。
言い換えると、「世界線」は一つの世界・人生の“筋道”であり、それが無数に並行して存在しうるという発想が、物理学から哲学・創作へと広がったわけです。
サブカルチャー(オタク文化)における「世界線」の意味
現在の日本語で「世界線」といえば、多くの場合はアニメ・漫画・ゲーム文脈で使われます。
この場合の意味は、
「今とは異なる並行世界」
「もしも違う選択をしていたら起こり得た仮想の未来」
といったニュアンスです。
その認知を爆発的に広めたのが、人気ゲーム・アニメ『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』です。
▼『STEINS;GATE』での世界線
STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)では、主人公が過去を改変することで因果が変化し、別の世界線へ移行していく物語が描かれます。
この作品をきっかけに、
「もし違う選択をしていたら起こり得た別の現実」
という意味で「世界線」が一般にも広く定着しました。
▼補足:作中の世界線について
STEINS;GATEには、
「世界線変動率」
「アトラクタフィールド理論」
などの設定があり、世界線は無数にあるのではなく、1つの世界に複数の可能性(分岐)が存在するという扱いです。
作中の「β世界線 → α世界線 → β世界線 → SG世界線」という移動は、すべて同じ“世界”の中の分岐を示します。
また、「世界線」と「世界観」は混同されがちですが、全く異なる言葉です。
▼世界観と世界線の違い
世界観:作品や人物の価値観・設定・舞台(どんな世界か)
世界線:その世界の“時間の流れ”や“物語の筋道”がどう分岐したかを示すもの
例
- 「この二人が結ばれる世界観が好き」 → 設定・雰囲気
- 「この二人が結ばれる世界線が見たい」 → もしもの展開(時間軸)
また、辞書でも新用法として収録されています。
いわゆるオタク用語としての「世界線」は、パラレルワールドの実在を仮想したうえで、「現実と分岐した別の時空」または「現実の時空」そのものを指す意味で用いられる。
世界線の使い方(例文・用例)
「世界線」はSNSや日常会話でも幅広く使われています。
意味がやや抽象的なぶん、比喩的に使える便利な言葉として定着しています。
1.「この世界線、正直しんどい」
→ 今の状況がつらい。
2.「目覚めたら痩せてる世界線に行きたい」
→ 都合よく理想が叶う別世界への願望。
3.「推しと出会える世界線どこ?」
→ 現実では難しいが、別の世界なら出会えるのでは?という冗談交じりの表現。
4.「あの二人がくっつく世界線は無理」
→ そんな展開は受け入れられない、という否定。
5.「世界線ズレてるよ!」
→ 予想外すぎる展開・常識外の行動を指す。
6.「世界線変わった?!」
→ 幸運や偶然が重なり、別世界に来たような感覚。
世界線の言い換え・類語
「世界線」を別の言葉で表現したい場合、文脈に応じて次のような言い換えが可能です。
1. パラレルワールド/並行世界
最も代表的な類語。「別の世界線」はそのまま“パラレルワールドの一つ”と置き換えられます。
2. もう一つの世界/別世界
日常語として非常にわかりやすい表現。
3. 時間軸/タイムライン
世界線ではなく「時間の流れ」を強調したい場合に適切。
『例解新国語辞典 第十版』には「タイムライン(世界線)」という語例が新語として収録されており、これにより「時間軸」としての言い換えも可能だと考えられます。
4. if(もしも)の世界/ifストーリー
仮想の物語を示す表現。「世界線」とほぼ同義で使われます。
例えば以下の作品、「ifの世界で恋がはじまる」は、2025年11月にドラマ化もしています。
5. 平行宇宙/マルチバース
SF寄りの専門表現。世界線の集合を指す広い意味で使われる場合もあります。
世界線の英語表現
「世界線」を一語で表す英語はありません。
文脈に応じて以下のように使い分けます。
1. world line
物理学の文脈では world line が正式な用語です。
ただし、日常会話ではほぼ通じません。
例えば「別の世界線」は英語直訳ではanother world lineになりますが馴染みのない言葉です。
2. parallel world、alternate timeline
オタク的な意味での「世界線」を説明するなら、
『parallel world / parallel universe』
『alternate reality、alternate timeline』
こちらが自然です。
Official髭男dismの楽曲「Pretender」の歌詞「出会える世界線」を英訳すると、
「a parallel universe where we could have met」(私たちが出会えた別の世界)
と表現できます。
3. timeline
「時間軸」という意味なら『timeline』が適切です。
日本の国語辞典でも「タイムライン(世界線)」と併記されています。
「この世界線では起こりえない」→ In this timeline, that can’t happen.
SNSのタイムラインとの混同に注意です。
以上をまとめると、
- 世界線 = 直訳「world line」
- 意訳「parallel world」「alternate timeline」
と覚えておくと便利です。
海外のSFファンやアニメファンには" world line "でも伝わる場合がありますが、一般的には" parallel universe "や" alternate world "の方が理解されやすいでしょう。
▼参考
英語版Wikipediaでは『Steins;Gate』の説明の中で、worldlineが『different alternate realities(別の現実世界)』として紹介されています。
よって、英語で「世界線」を説明する際は『parallel world / alternate reality』が最も伝わりやすいと言えます。
世界線の元ネタ・語源
「世界線」はいつ頃から使われ始めた言葉なのでしょうか?
語源をたどると、次のような流れになります。
原初の語源は科学用語(20世紀初頭)
「世界線」の語源をたどると、20世紀初頭の物理学に行き着きます。
ドイツ語Weltlinie(英語:world line)という概念は、時間と空間を1つの四次元時空(ミンコフスキー空間)として捉えた、ヘルマン・ミンコフスキーの時空構造と深く結びついています。
すなわち、物体が時間とともに移動した“軌跡”を、時空上の線として捉える発想が「世界線」で、長らく一般の日常会話には出てこない学術用語だったわけです。
SFでの使用(〜2000年代)
やがて「世界線」は、SF小説やアニメ・ゲームなどの分野でも使われるようになります。
とくに、パラレルワールドやタイムトラベルを題材とする作品では、「時間軸」や「歴史の分岐」を表す概念として登場しました。
代表的な例としては、
- 魔法少女まどか☆マギカ(2011年)
- Re:ゼロから始める異世界生活:(2012年)
- 僕だけがいない街:(2012年)
などが挙げられます。
これらの作品に共通するのは、
「違う選択をしていたらどうなっていたか」という“分岐した時間軸”
を物語の中心にしている点です。
まだこの段階では「世界線」という言葉自体の認知は狭いものの、概念としては広く浸透し始めていました。
広く普及したきっかけ:『STEINS;GATE』(2009年〜)
そして、「世界線」という言葉を一気に広めたのが、2009年に登場した『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』です。
本作(原作ゲーム)では、
「世界線変動」
「世界線収束範囲(アトラクタフィールド)」
といった概念が物語の中心に据えられ、主人公・岡部倫太郎が異なる世界線を行き来しながら運命を変えようと試みます。
後にアニメ版(2011年)でも具体的に描かれ、「世界線」はパラレルな現実を象徴する言葉として一般にも浸透しました。
また、京都府立高等学校図書館協議会のレファレンス事例には、同辞典の記述として、
「コンピューターゲーム『シュタインズ・ゲート』から2010年代に広まった言葉」
と紹介されています。
若者を中心とした言葉として定着(2010年代)
オタク以外にも「世界線」が浸透した象徴的な出来事があります。
2019年、Official髭男dismの大ヒット曲 「Pretender」 で、世界線という言葉が歌詞に登場し、さらに広く浸透しました。
サビの一節
もっと違う設定で
もっと違う関係で
出会える世界線
選べたらよかった
作詞を手掛けたボーカルの藤原聡さんは、
『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』というアニメの大ファンでして、このフレーズはそこからインスピレーションを受けたところもあります。
と語っています。
この楽曲をきっかけに「世界線とは?」と興味を持つ一般層も増え、以降、テレビやネット記事でも取り上げられるようになりました。
引用元:Uta-Net 今日のうた
このように「世界線」は、
専門用語 → SF設定用語 → オタク用語 → 若者を中心とした言葉
へと変遷したユニークな経緯があるのです。
つまり世界線とは?わかりやすく言うと
「世界線って何?」と聞かれたら、一言でいうと「ひとつの物語(道筋)」です。
私たちの世界は、過去から未来へと時間が流れ、その時々の出来事がつながっていく一本の道筋です。
世界線が違うとは、
「物語の筋道が違う別の世界」
という意味です。
例
- サッカーを続けた世界
- サッカーをやめた世界
この2つは別々の世界線として考えられます。
子ども向けには、ドラえもんの「もしもボックス」を例にすると理解しやすいでしょう。
この道具は、「もしも◯◯だったら…」という仮定で別の世界へ移動できる道具であり、まさに「別の世界線」に飛び込むイメージです。
「もしもの世界」とか「もう一つあるかもしれない世界」なんだよ。
と子供に伝えれば、目をキラキラしながらおもしろいことを言ってくるかもしれませんね。